『スターフォックス ゼロ』のアニメーションができるまで。 [第3回]見てから遊べば、より楽しめる

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みなさん、こんにちは! 京都在住ライターの左尾昭典です。
第2回の「アニメならではのストーリーと表現」はいかがだったでしょうか? アニメにしろ、ゲームにしろ、ものづくりも後半に入ると「ま、これでいいかな」と思うことも多いと思うのですが(自分がそうです)、「これが入ったら、もっとよくなるんやないの?」と、最後の最後まであきらめない、宮本さんたちのものづくりへのこだわりが、とても強く感じられた回でした。

さて最終回のテーマは「見てから遊べば、より楽しめる」です。「アニメのこのシーンにはこんなものまで描かれてるの?」という話も出てきますので、ぜひ最後までおつきあいくださいね。それでは出撃!

第3回

見てから遊べば、より楽しめる

ギターのデザインへのこだわり

あしゅらさんがギターでリテイクを出したというのは、どういったシーンだったんですか?

あしゅら

コーネリアの街中で、たくさんの住人が楽しそうに暮らしているシーンがありますよね。

その街中の下絵はあしゅらさんが描いたそうですね。

あしゅら

そうなんです。そこにギターを弾いてる人を入れたんですけど、僕がそのギターのデザインの描き直しをお願いしただけで、今村さんからすごいひんしゅくを買ったんです(笑)。

今村

僕は任天堂側の進行管理も行っていたのですが、最後の最後でギターの絵描き直してほしいと言うんです。さすがにもう間に合わないだろうというタイミングだったので、困りました。

宮本

僕もあしゅらさんと同じようにギターを弾くので、あしゅらさんが言いたいことは、とてもよくわかったんです。ところが、今村は「あしゅらさんを説得してくださいよ」って言うし・・・僕もあのときだけ、板挟みやったんです(笑)。

一同

(笑)

石川

井野元さん、街中のシーンのギター弾いてるところとかはCGではなく作画なんでしょう?

井野元

はい。作画です。

石川

CGだったら、いまからどうやって直すの、という話になりますけど、作画だったからなんとかなったんですよね。

浅野

そうですね。ちょうど着彩の作業に入ろうとしていたので、あしゅらさんからリテイクが入ってからすぐに現場を止めて「色はまだ塗らないでください」という指示を出しました。

あしゅら

・・・すみません。

中武

でも、あしゅらさんもすごく仕事が早くて、ギターの差し替え原稿をすぐに用意してくれたんですよね。

浅野

だから1日で修正を終わらせることができました。

宮本

あしゅらさんはギターのコレクターでもあるので、デザインに関してもこだわりが強いんですよね。

あしゅら

ええ、まあ、ギターマニアとして、やっぱりそこは譲れない、と言いましょうか(笑)。

ギターのデザインへのこだわり

アニメでは、母艦のグレートフォックスの内部も描かれていますけど、その下絵を描いたのも、あしゅらさんなんですよね。

あしゅら

そうです。私はもともと、スーパーファミコン時代のポリゴンで描かれた『スターフォックス』のコミックを描いたくらいですから、ゲームでは表現されていない世界を描くのが得意なんです。それに、ゲームで描き切れていない部分を描くということも、今回のアニメの重要なタクティクスのひとつだと思っていたんです。

グレートフォックスの部屋のなかにはいろんなものが置かれていますけど、「これに気づいたかな?」ということはありますか?

あしゅら

もうみんな気がついてるでしょう。たとえば、ファミコンのコントローラがあったり・・・。

はい、ありますね。ペッピーの机の上には潜水艦が置かれてますけど・・・。

今村

3DSに『スティールダイバー』(※1)という潜水艦のゲームがありますけど、あれを今村さんがつくったと聞いて、じゃあ潜水艦も置いちゃえと。あれは『スティールダイバー』のamiiboという設定なんです(笑)。

※1 『スティールダイバー』=2011年5月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

だから、台に載ってるんですね。

あしゅら

今回のアニメがウェブで配信されるということが決まったとき、画面を止めて見てくれる人も多いだろうな、と思って、そういう細かいネタはいろいろ仕込んでいるんです。

高野

だから、フォックスのお父さんとペッピーのツーショット写真を見つけたお客さんもいて・・・。

そのツーショット写真というのは?

浅野

ペッピーが毛玉のお守りを探すシーンがあるでしょう。そのときに、ペッピーの足下に置いてある写真が映るんです。ただ、1コマか2コマくらいの一瞬ですし、しかも暗いので、誰もわからないだろうなと思ったんですけど・・・。

高野

僕はぜんぜん気づきませんでした。

浅野

細かいところまでよく見てくれてるなあって、僕もすごく感心しました。

未来の電子ペーパーも登場

今村

ペッピーが部屋のなかで、積み木を片付けるシーンがありますけど、あれって内輪ネタなんですよね。浅野監督のお子さんが・・・(笑)。

浅野

そうなんです(笑)。ペッピーが部屋を片付けるシーンを描くことになって、床の上をどんな物で散らかせばいいのかと悩んでいたんですけど、そんなときに家に帰るとリビングに積み木が転がっていたので、「これ、使える」みたいな(笑)。それに、もともと井野元さんがつくってくれたCGがあって、積み木のようなものが散らかっていましたしね。

井野元

あれは、仮に置いていたんです。もちろん差し替えることを前提に。ところが何も言ってこないので、一応確認したんです。「積み木で大丈夫なんですか?」と。

浅野

そうそう(笑)。

井野元

そこで、そのまま使うことにしました。監督が「大丈夫大丈夫」と言うので(笑)。

一同

(笑)

宮本

けど、たぶんほとんどの人が気づいていないネタもあるんですよね、グレートフォックスの部屋のなかには。居眠りをしているスリッピーが顔にかぶせている本がそうで・・・。

あしゅら

はいはい(笑)。

宮本

「未来の話なのに、こんな紙の本が?」と思われるかもしれませんけど、じつはあれ、電子ペーパーなんです。僕はタブレットのような形になるのかなと思っていたんですけど、「未来では、やわらかい電子ペーパーが実現してるんです」というので納得したんです。ところが、どう見てもふつうの紙にしか見えない(笑)。

一同

(笑)

あしゅら

本当はスワイプできたりするはずなんですけど、ほとんど表紙側しか映りませんしね。

浅野

でも、よく見ると、表紙の絵や文字がちょっと動いてるんですね。

中武

あと、色が変わりますしね。

宮本

なので、じつはあれ、未来の電子ペーパーだったんですけど、スリッピーがそれを見ながら、「新しくできたウォーターパークでカニを食べよう」って言うでしょう。日本人なら、温泉に行ったらカニを食べたいという気持ちもわかってくれると思うんですけど、外国の人にその気持ちをわかってもらえるのかな・・・ということが、今回アニメをつくって、唯一の不安なんです。

一同

(笑)

ゲームの2人プレイでかけ合いを楽しむ

ちなみに、ソフトの発売とアニメの公開はほぼ同時でしたけど、アニメの制作中にゲームを触る機会はあったんですか?

高野

はい。開発中のゲームを、みなさんに触っていただきました。というのも、アニメ制作のやりとりをしていると、「たぶんこの部分は伝わっていないんじゃないかな」ということもあったんです。たとえば、新しい装備であるバイザーを、口で説明するよりも、実際にプレイもらったほうが、ご理解いただけると思ったんですね。

中武

そこで、任天堂さんに行ってプレイさせてもらったのですが、ものすごく楽しかったんです。宮本さんがゲームのやりかたを教えてくれましたし・・・。

浅野

しかも、うまくいったときは、周りの人たちがほめてくれるんです(笑)。

中武

ほめてもらえると、すごいやる気が出るんです(笑)。

宮本

みんな、手に汗をかいてましたけどね(笑)。

一同

(笑)

中武

でも、あの日はすごく気分がよくって。

宮本

「すごく興奮した」とも言ってましたよね。

浅野

はい、すごく興奮しました。

宮本

本当に頼もしいモニターをしてもらったんですけど、『スターフォックス ゼロ』が難しいゲームだという人もけっこういらっしゃるんですね。その「難しい」というのも3つのタイプがあって、2画面で遊んだことがないので難しいという人、新しい操作を覚えるのが難しいという人、そのコース自体の難易度が高いと感じる人がいるんです。だから、3人の人が「難しいよね」という話をしていても、じつは難しく感じているところがそれぞれ違う、ということもあるんじゃないかと思うんです。

今村

そうですね。

宮本

で、今回は、その3つの難易度のそれぞれが高いんですけど、それはつまり、このゲームのすべてが難しいというわけではないということなんです。なので、何度も遊ぶことで、それぞれの課題に慣れて、そのうちすごく快適に遊べるようになると思います。

あしゅら

『マリオ』もそうですけど、1回失敗してもくじけずに遊んでいれば、どんどん上達していきますからね。

中武

個人的な体験から言いますと、僕がオススメなのは2人プレイです。ひとりで遊んでいて難しく感じる人でも、友だちや家族と2人で協力しながら遊ぶと、難易度がすごく下がるんです。

今村

そうですね。それに、2人プレイで会話をしながら遊ぶと、まるでスターフォックスのチームのようなかけ合いが生まれるんです。「後ろから来るぞ」とか「ローリングではじくんだ」とか、それがまるでアニメのようなかけ合いになって・・・・・・(小声で)うまいこと言ったな、おれ(笑)。

一同

(笑)

宮本

だから、アニメを見たあとで、ゲームを遊ぶのもいいんですよね。今回はゲームでは表現できなかったところまで、アニメでは表現されていますので、そのアニメの記憶を自分のなかに残しながらゲームを遊ぶと、いろんな情報が補完されて、すごく楽しめると思います。

高野

よりやってる感が味わえるんですよね。

あのタワーのてっぺんにペパー将軍がいて、いままさにストライダーに襲われそうになっているとか・・・。

高野

そうです。だからぜひ、アニメを見たあとでゲームを遊んでほしいですね。すると、『スターフォックス ゼロ』ならではの臨場感がすごく楽しめると思います。

関係性のいいスターフォックスの4人

さて、最初は5分の脚本ではじまった『スターフォックス ゼロ ザ・バトル・ビギンズ』の制作ですが、最終的に15分を超える作品に完成して、そのときどんなことを感じましたか?

今村

僕は宮本さんといっしょに1作目のスーパーファミコン版のゲームをつくったときから、映像化したいという話をずっとしてきたんですけど、その夢がやっと叶った!・・・ということを、会社の隣に座っている若いデザイナーに自慢していました。

一同

(笑)

今村

「頑張っていれば、いつか叶うから、君もがんばりやー」って(笑)。

浅野

それは僕も同じです。自分も任天堂さんのゲームで育ってきましたので、このプロジェクトに関わることができて、自分の夢が叶ったなあと思っています。

石川

このアニメが完成したあと、浅野の奥さんに会ったら「はじめて子どもに見せられるものができました」って感謝されたんです。

あしゅら

ああ・・・(笑)。

中武

『進撃の巨人』だと人を食べちゃうので、ちっちゃな子には見せられませんからね(笑)。

石川

でも、そう言ってもらえてうれしいよね。

浅野

はい。すごくうれしいです。

中武

僕は今回、アニメを制作して感じたことなんですけど、スターフォックスの4人の関係性がすごくいいなと思いました。フォックスとファルコはなんとなく不良感があるんですけど、スリッピーがいると、芝居の幅がすごく広がるんです。ギャグでも使えるし、しかも天才科学者というギャップがおもしろいですし・・・。それにペッピーは敵に対してすごく怒るじゃないですか。そのような、それぞれの個性を見ても、どこからでもドラマを撮れそうだと感じますし、何より妄想がすごくふくらむんです。

宮本

もともと『スターフォックス』というシリーズには、そのような関係性があったからこそ、今回、アニメ化することができたとも言えるんですよね。もともと、ペッピーがフォックスのお父さんの友だちという関係があったり、アンドルフとペパー将軍が敵対する関係があったり、登場人物それぞれに、いろんな関係が複雑にからみあっているから、物語にしやすいんです。

あしゅら

しかも、壮大なテーマも・・・。

宮本

そう、壮大なテーマも考えたりしていますしね。

あしゅら

だから、シリーズを何話か重ねて、『スターフォックス』の壮大な物語を、さらに分厚くして・・・ということができたらいいなあって(笑)。

一同

(笑)

中武

本当にそう思います。この物語をどんどんふくらませていければ、たくさんの人たちに感動していただけると思いますし・・・。

浅野

僕もつづきをやりたいです。

石川

本当につづきをやれるといいですよね。

あしゅら

はい。この話のつづきは、次回のお楽しみに~!・・・って違うか(笑)。

一同

(笑)


アニメの続編について、思わせぶりな終わりかたをしてしまいましたが、インタビューをした時点では、まだ何も決まっていないそうです(残念)。でも、『スターフォックス ゼロ ザ・バトル・ビギンズ』を見た人はみんな、「つづきが見たいっ」と思ったのではないでしょうか。

かつて、ゲームボーイアドバンスソフトの『F-ZERO』がアニメ化され、2003年から1年間、テレビで放送されたことがあります。このアニメの監修に関わったのが宮本さんと今村さん。なので、今回の『スターフォックス』でも、同じようなことが起こらないかなあと、念じている私です。それに、今回登場したのは男ばっかりだったし、ゲームに登場するキャットのように、色っぽい声が魅力の女性キャラもアニメで見てみたい、と思うのは私だけではないはずですしね。

それから最後にもうひとつ。第1回の冒頭でご紹介した『スターフォックス ゼロ ザ・バトル・ビギンズ+トレーニング』は楽しんでいただいていますか? 今作の『スターフォックス ゼロ』では、4つのマシンが登場するため、操縦に手こずる人もいるかもしれませんね。けど、この無料体験版を遊びながらトレーニングを積んでおけば、ゲーム本編がより楽しめることは間違いなしです。トレーニングを積んだ後は、本編『スターフォックス ゼロ』も、ぜひお楽しみくださいね!

それでは、全機出撃!

©2016 Nintendo

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