「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第２回「バルーンファイト篇」

それでは、坂本さん、よろしくお願いいたします。

僕は１９８２年入社ですので、そうですね。

もともと僕は、ゲーム＆ウオッチ^（※1）のデザイナーとして入社したんです。最初はまず、そのお手伝いをすることからはじまって、自分でもゲーム＆ウオッチをつくったりもしました。

いろいろあるんですけど、たとえばパノラマスクリーンというのがあるじゃないですか。

そのパノラマスクリーンでは、『スヌーピー』^（※2）とか『ドンキーコングサーカス』^（※3）、『マリオズ ボン アウェイ』^（※4）とかいろいろ出たんですけど、あのへんは全部、僕がやりました。

アーケードゲームの『ＶＳ.レッキングクルー』^（※5）です。あの当時、上司だった横井（軍平）さん^（※6）は、「絵を描けるヤツは、ゲームもつくれるはずや」という考えかたをお持ちだったんです。そこで、絵を描きながらゲームデザインもする、みたいなことを同時にやっていました。もちろん、横井さんにいろいろと相談しながらですけども。

そのときからドット絵が描けるようになったんです。

そうですね。

そうです。ロゴとかタイトル画面とか、檻に閉じ込められているドンキーコングなどを描いたりして、宮本（茂）のお手伝いをちょっとさせてもらっただけですけどね。

横井さんから、「浮遊感があって、対戦もできるゲームをつくったらどうや」と言われたんです。

そうです。そこで、僕が絵を描いて、ゲームデザインをすることになり、プログラムを担当したのが、アーケード版ではＳＲＤ^（※8）さんで、ファミコン版が、あの当時、ハル研究所にいた岩田（聡）^（※9）さんだったんです。

ほぼ同時だったと思います。そのへんの記憶は定かではないんですけど・・・。

そうなんですよね・・・。でも、いまでもハッキリ覚えてることがあります。このゲーム、敵を海に落としたらシャボン玉が出るじゃないですか。

それって、ある日突然、横井さんが「シャボン玉を出せ」と言うのでつくったんですけど、最初は「無理やと思います」と言ったんです。

ファミコンの時代はグラフィックがシンプルすぎて、シャボン玉のような透明感のあるものは絶対に描けないと思ったんですね。

すると横井さんから「お前はやる前からすぐにできへん、できへん言うて」と叱られたんです。

「いいからいっぺんやってみい」と言うので「できへんと思いますけど、やってみます」と言って、やってみたら・・・。

簡単にできたんです（笑）。

当時は簡単な開発ツールがあって、それで実験もできたんですけど、横から横井さんが見ていて、「できてるやないか」って（笑）。すごく簡単にできてしまって・・・反省しました。それからは「無理やと思います」とか「できません」とは言わないようにしようと思いました。

そうですね。正確に言うと、僕のほうが１８歳年下でした。

そう、同学年です。

あります。いまでもハッキリ覚えていることが２つあります。まず、岩田さんから聞いた話と、僕が実際に見た光景がありまして・・・まず岩田さんから聞いた話をしましょうか。

『バルーンファイト』をつくったときは、岩田さんに京都まで来てもらい、任天堂で用意した一室でいろんな作業をしてもらっていたんです。

ずーっといてもらうのではなくって、たまに来てもらう感じでした。で、岩田さんがひとりで部屋にこもって作業をしていると、いきなりロマンスグレーの紳士が入ってきて、何にも言わずに椅子にすわって、開発中の『バルーンファイト』をずーっと触っていたそうなんです。

横井さんです。

それで、岩田さんも「どうしたらいいの？」と思ったらしいんですね。

そうです。お互いに面識がなかったんです、あのときは。で、横井さんはかなりの長時間さんざん触ったあげく、「ここと、ここと、ここを直しといて」って言って、さっと部屋を出ていったそうなんです。それで、岩田さんは「誰、いまの人？」と思って、僕らに聞いてようやく、「ああ、あの人が横井さんだったんだ」というのがわかった・・・という話を、岩田さんから直接聞きました。

いい話でしょう？

で、僕が直接見た、もうひとつの話をしましょう。

ちょうど『バルーントリップ』をつくっているときで・・・。

そうなんです。『バルーントリップ』は横井さんのひらめきから生まれたゲームで、「こういうものをつくってみたいなあ」と言ったのを、岩田さんが３日間で形にしたんです。で、このゲームがほぼ完成していたタイミングだったと思うんですけど、僕が岩田さんといっしょにいるところに、横井さんがやってきて、そのときはすでに面識がありましたから、「岩田さん、ご苦労さまです」と声をかけてから、『バルーントリップ』を遊びはじめたんです。例によって長々と。

で、そうやってひととおり遊んだあとで、「岩田さん、こことここを、こうしてほしいねんけどなあ」と言って、オーダーを出したんですけど、簡単に修正できるものではなかったんですね。というのも当時は、プログラムをしたものを紙に打ち出して、電話帳みたいに厚い紙の束を調べてから、修正していたんです。

だから、何か所か直して、という話になると、少なくとも１時間くらいはかかるんです。なので、横井さんとすれば、それが直るまでは、自分の席に戻って、コーヒーでも飲んで、というつもりだったんでしょうね。岩田さんに修正を頼んでから、席を立とうとしたんです。すると岩田さんが「ちょっと待ってください」と言ってから、キーボードをタタタタタッと叩きはじめたんです。そして「できました！」と。

そんなに速く直せるのかと、僕はすごく驚いたんですけど、横井さんも「もうできたん！？」と声をあげるくらいビックリしていたのを、いまでもよく覚えているんです。

岩田さんは全部覚えてるんですね、プログラムを。

本当にそうですね。

そうでしょうね。プレイヤーの選択画面には、１人用モードの「Ａ」、２人用モードの「Ｂ」があって、それだけでは物足りないから、きっと「Ｃ」も欲しかったんでしょうね。

違いますよね。

風船がオレンジ色に変わるんです。じつは僕自身『バルーントリップ』が一番好きで、どれだけ先まで行けるか、ということに挑むことが楽しくて、最高得点をクリアすると、動くたびに、数字がずーっと上がっていくのがすごく気持ちがいいんです。最初はちょっと操作が難しいんですけど、慣れるとけっこう思うように動かすことができるようになりますしね。

それに、シャボン玉をとって、スクロールを止めて、取り逃したヤツを、取るためにちょっと戻って、ということができるようになると、すごく気持ちがよかったですね。

だから、横井さんがよくぞ「つくれ」と言ってくれたなあと思いますよね。

自分にとっては、本格的に関わったビデオゲームとしては２作目だったわけですね。最初の『ＶＳ.レッキングクルー』のときは、いろいろと描かせてもらって・・・絵もそうですけど、ゲームにまとめるのがすごく難しかったんです。でも、そのときに悩んだことは、自分にとってはかなり勉強になりましたので、『バルーンファイト』のときはとてもやりやすかったんです。

ええ。もちろん、いろいろな試行錯誤はありました。プレイヤーが２個風船を背負っているのがゲームデザインにすごく密接に関わっているんですが、それをどう形にするか、とか。あと、台の上の敵たちがポンプで風船をふくらませる動きができたときは、本当にうれしかったです（笑）。

そのように、『バルーンファイト』のときは、心に余裕を持ってつくることができましたし、自分で言うのもなんですけど、２作目のときはちょっと成長したなあという実感がありましたね。

ある会社の人と会議をしているときに、「クラシックミニ」の話題になったんです。

その人が「僕はこれ、温泉に持っていって、お酒を飲みながら遊びたいんです」と言ったんですけど、それって僕も楽しいだろうなと思いました。

みんなで旅館に泊まって、浴衣を着て、お酒を飲みながら、『バルーンファイト』を遊ぶと楽しいやろうなあって。

で、２人用のモードで遊んで、協力プレイだといいながら、わざと仲間を倒して、それを酔ったせいにしたりとか（笑）。

ちょっとクセのある操作性になっていますので、かつて遊んだお父さんから教えてもらいながら、ちっちゃいお子さんにも遊んでいただけるとうれしいですね。

バッチリです。

じつは僕、１０年くらい前にこういうことをやろうと言っていたんです。

ファミコンの形をした、テレビに映せるゲームボーイアドバンスをつくったらおもしろいんじゃないかということで、モックアップ（模型）までつくっていたんです。

そうそう、その流れです。たまたま僕が暇やったもんですから・・・。

つくったんですよ。

そうです。でも、そのときはまだ動くものはできていなくて、形だけで・・・でも、箱もつくったんですよ。

そうですね。１０年前もアートワークの人と相談して、パッケージのちっちゃいやつを考えたりしていたんです。

早すぎたというか、お蔵入りになったくらいですから、リアリティーがなかった、ということなんでしょうね。

そりゃあうれしいです。やっとできたって。

バッチリです（笑）。

（第３回は『スーパーマリオブラザーズ』です。お楽しみに）